「元気な日本特別枠」に関するパブリックコメント

以下に、政府が行った「元気な日本復活特別枠」要望に関するパブリック・コメント募集に対して、文化人類学若手有志として提出した意見の内容を掲載します。
意見は、文部科学省による「成長を牽引する若手研究人材の総合育成・支援イニシアティブ」(pdf)に向けられました。
なお、結果は以下の通りです。残念です。

 
 
「成長を牽引する若手研究人材の総合育成・支援イニシアティブ」について
 
【今回の政策の良い点】

  • 若手研究者と一括りにされる対象は、これから大学院に入る者、現在ポストドクターの者、任期付きの職にある者、研究を中断せざるを得なかった者(特に女性)など、様々な立場にあります。ゆえに、一点集中型ではなく、「包括的な」支援を行う今回の政策は重要なものだと考えます。
  • また、学術振興会の特別研究員について、採択率の具体的目標値を設定することは、研究を続けるためのモチベーションを補強し、少しでも将来への見通しが明るくなることで、採用者の質の向上にもつながるのではないでしょうか。
  • 今の若手研究者にとって、30代でキャリアがストップしてしまう危険は職業的問題として存在しています。その意味で、テニュアトラックは将来の不安を解消するという意味で重要な方途だと思います。


【今回の政策の悪い点】

  • 「若手」研究者とは年齢によってのみ決めるものでしょうか?例えば学術振興会の特別研究員応募には年齢制限があります。ですが、社会人経験を経て研究生活に入る人々も支援していかないと、キャリアパスが固定化されてしまいます。例えば年齢ではなく、大学院卒業からの年数で若手を定義するなど、代替策について議論していっても良いのではないでしょうか。
  • 安定的雇用の絶対数と大学院生もしくはポスドクなどの数がアンバランスなので、若手を数年支援するだけでは根本的な解決にはならない側面もあります。安定的雇用という方面での支援も必要なのではないでしょうか。
  • 「内向き思考の打開」という項目がありますが、人文社会科学の領域では目に見える形での国際的な研究を行っていきにくい部分もあります。そうした項目について、直接的・短期的成果に基づく評価を行うことは、理系偏重ではないでしょうか。

【その他の意見】

  • 若手研究者の支援は、日本の学術の将来を支える礎を作るものです。それは、基礎科学と呼ばれる理系ジャンルだけではなく、人文・社会科学についても同じことが言えます。
  • ところが、生活の為に研究をあきらめざるを得ない若手研究者が多く存在します。
  • 特に人文・社会科学系の研究者の場合、博士課程進学以上の場合は年齢的理由などから一般企業への就職というキャリアパスが実質的に閉じられている点は致命的です。
  • この一般企業への就職問題については、何らかの組織的・公的な後押し・宣伝などによる文系研究者の一般企業への就業支援にも支援があるといいのではないでしょうか。
  • また、奨学金制度の見直しも必要です。大学ポストが少なくなる昨今、旧育英会が実施する奨学金返還滞納者のブラックリスト化は悲惨な状況を生み出しています。私たちの周囲でも、博士課程修了し、非常勤講師をしているが600万の「借金」を背負わされている人がいます。これでは、学生に大学院に行くな、と言っているに等しいと思います。「貸与」ではない奨学金制度を含めた支援制度を考えない限り、若手人材の先細りは目に見えているのではないでしょうか。既に大学院を修了した人に対しても、大学院以降で育英会・学生支援機構奨学金貸与した分の追加免除制度(全額ではなくとも、対象に希望プランを含めて、現在の経済状況を考慮した上で、貸与額から免除する等)が必要とされています。
  • 今回のコンテストに挙げられている政策の多くが喫緊のものであることは重々承知しております。ですが、若手研究者の置かれた状況もまた見通しの暗いものであることは確かです。十分な議論をしていただけることを、若手研究者有志一同、心から願っています。